桜の頃
学生相談室カウンセラー 渡里千賀
新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。
在学生の皆さんも、立場が変わっての新たな一年のはじまりですね。
皆さんにこのお便りが届く頃には、桜は咲いているでしょうか。桜と言えばソメイヨシノが有名ですね。一般的な植物は、まず葉をつけ光合成をしながら栄養を蓄え開花し、実をつけていきますが、ソメイヨシノは葉より先に花をつけます。
葉が1枚もない枝に咲く花はとにかく目立つので、虫や鳥たちに見つけてもらいやすく、受粉しやすいそうです。
開花に必要な栄養を前の年から一年かけて幹や根に蓄えます。また、花が一斉に咲いて間を置かず散ってしまうのにも意味があるそうです。
ためていたパワーを短期間で効率よく使い、繁華街のネオンのように目立つことで虫や鳥を呼び寄せるのです。
仕事を終えた花は散りやすいように離弁花になっていて、早く落ちて、翌年の準備のために葉に生きるための場所を譲り渡します。華やかに見えますが、実は準備周到な植物の生存戦略の一環なのです。
この数年、コロナによって私たちの生活は大きく変わり、今もなお変化し続けています。変化についていくのに疲れが出ていませんか?
絶え間なくアンテナを張りつつ、変化に対応し続けるのには相当なパワーが必要で、気持ちが疲れてしまうのも心の自然な動きです。
加えて、春は、人間の体内で静から動へスイッチを切り替える大きな変化が起こる時期でもあります。内側も外側も動くこの季節は不安定で、実は心身の調子も崩しやすい時期でもあるのです。
コロナ禍の下、自粛、自宅待機など行動制限を体験した人もこれからせざるを得なくなる人もいるかもしれません。「動けない」「出られない」「何もできない」を、必要な時にエネルギーを出力できるための充電期間というように前向きにとらえてみてはいかがでしょうか。
「春眠暁を覚えず」という中国の諺もありますが、春は朝が来たことも気づかないほど寝心地がよいそうです。そのくらい休息と睡眠が必要な時期なのだと考え、ソメイヨシノのように、ゆっくり休むことで自分の体内にエネルギーをためておくのもよいかもしれませんね。
(No.94 2022年4月1日)
ひとやすみとこころの栄養
学生相談室カウンセラー 長谷雄太
はじめまして。今年度から学生相談室のカウンセラーとして着任しました長谷と申します。
これからどうぞよろしくお願いいたします。私はこの大学に来て1か月足らずなので、まだまだ新入生のような、ソワソワした感覚が残っています。
ちょうど4月に入る前、昨年度種から育て始めたサボテンを、少し大きい鉢に植え替え
をすることにしました。まだ針も柔らかく、根を合わせても2センチくらいしかないサボ
テンだったので、傷つけないように神経を研ぎ澄ませて、ピンセットでサボテンを運んだ
のを覚えています。
私としては上手く植え替えられたと思っていたのですが、次の日サボテンの様子を見ると、サボテン全体が赤紫色に染まっていました。慌ててサボテンの状態について調べてみると、サボテンは環境が変わると体の色を変えて「今苦しい!」というのをアピールするそうです。
それからはしばらくむやみに触らず、適度に栄養を与えながら様子を見守っていると、ゆっくり根が土になじみ、綺麗な緑色に戻っていきました。
人間にも環境の変化があると、どれだけ良い変化であっても、サボテンが鉢替えされた
時のような刺激や負担が生じるのではないかと思います。
そして人間の場合、しんどさの表現方法が多様なうえにわかりづらいことも多く、周囲の人々も、場合によっては自分自身もその苦しさに気づいていないことがあるかもしれません。
“五月病”とよく呼ばれますが、新入生も2回生以上も多かれ少なかれ体験した環境の変化によって、心身ともに疲れ始める時期なのではないかと思います。
自分についても、自分の親しい人についても、「いつもとちょっと違う気がするな」と感じたときは、1年間を元気に過ごすためにも、少しゆっくりする時間を多めにとってみることが大切かもしれません。
そして、自分の趣味や大切な人との時間、おいしい食事など、自分にとっての“栄養”となるものを十分に得るようにしてくださいね。
(No.95 2022年5月16日)
「脱ぐ」と「外す」
学生相談室カウンセラー 高石恭子
長かったコロナ禍の自粛生活も徐々に終わり、様々な活動制限が解除に向かっています。
多くの人にとって、それは喜ばしい変化に違いありません。
しかし、環境の変化は、ポジティブであれネガティブであれ生体としてのヒトには等しくストレスであり、心にも負荷をかけます。蒸し暑いこの梅雨の季節、マスク生活から早く解放されたいと願っている人がほとんどだと思います。
しかしながら、いつから、どこで、どんなときに行動に移すのかを考えると何となくもやもやした気持ちになり、先延ばしにしたくなるのではないでしょうか。
マスクを「脱ぐ」。マスクを「外す」。
みなさんは、どちらの表現が今の気持ちによりフィットしますか。
2年余り、家から一歩出るとマスクを付けることが習慣化してしまった今、若い人の中にはマスクを「顔パンツ」と表現する人もいるようです。皮膚に密着し、顔の下半分を覆うマスクはもはや下着のような自分を守る覆いになっていて、それを取ることは、下着を人前で「脱ぐ」ような、恥ずかしさや抵抗を覚えるということです。言い得て妙、ですね。
一方、「外す」にはどちらかというと、与えられた枠や制限から解放されたいという能動的な心の動きが込められているような気がします。もっと、ありのままの自分を全部見てほしい。喜怒哀楽や、葛藤するなまの感情を共有したい。そんな欲求が垣間見えます。
もちろん、みなさんがどちらかに2分されるわけではありません。多くの場合、両方が混じり合った状態で周囲の人々を注視しているのが実際ではないでしょうか。日本の社会は同調圧力が強いので、多数派の行動に従うことで自分を守ろうとする心理が働きます。マスクに限らず、どこまで感染防止対策をするか、ワクチン接種をどうするかなど、次々と個人の判断を要求されるコロナ禍は、日本人の意思決定のあり方の特徴を改めて可視化して私たちに突きつけたのです。
対面授業が増え、いずれマスクなしが多数派を占めるキャンパスライフが実現していくでしょう。「脱ぐ」ことを迫られると感じる人にとっては、これまでより学生生活が不安と苦痛に彩られていくかもしれません。そんなとき、無理をして脱ごうとしないでください、と私は伝えたいと思います。
精神科医の斎藤環さんは、人と(対面で)会うことは「暴力」であると言っています。傷つけ、傷つけられる偶然性に晒され、オンラインのように瞬時にその場から消えることができないからです。そのような暴力に対する感受性の強い人にとって、マスクを脱ぐことは、裸で危険に立ち向かうことを意味します。
コロナ後のキャンパスライフは、「脱がない」人も「外す」人も等しく安心して居られる世界になってほしいと願います。それこそが「多様性」の実現ではないでしょうか。
(No.96 2022年6月20 日)
夏の夜のさんぽ
学生相談室カウンセラー 松本 知香
先日、ふと思い立って久しぶりに夜中にさんぽに出かけました。夏が近づき、日中は日差しが強く蒸し暑い日も増えてきましたが、夜はちょうどよく過ごしやすい気温です。
柔らかな風を肌に感じながら歩き始めました。街灯の灯があるとはいえ、夜なのであたりは真っ暗。歩きなれたはずの街並みも普段とは違ってみえて、まるで異世界に迷い込んだかのような感覚でした。
さらに足をのばして入ったことのない小道を進んでみると、さらに異世界感が強まります。いつもよりも五感が敏感になっているような感じで、虫の声や川のせせらぎがよく聞こえたり、建物の不思議なシルエットに目が止まったりしました。
大きくて立派な木は、日の光の下で見るのとはまた違った印象で、神秘的な雰囲気でたたずんでいました。さらに進んだ先の川辺では、蛍を見つけるというささやかな幸運もありました。
思いがけず遠くまで足をのばしたので家につくころには足の疲れを感じるほどでしたが、新しい発見や静かな感動がある小さな冒険に心はとてもリラックスすることができました。
7月というと定期試験の準備をしながら普段通りの授業や部活やバイトもこなさねばならず、なかなか気持ちの休まらない月だろうと思います。
たまにはいったん目の前のことを忘れて夜のさんぽに出かけてみてはいかがでしょうか?
静かな夜の街を歩きながら周りの音や景色に意識を向けてみると、自然と心も落ち着いてきて、新しい発見もあったりして、リフレッシュできると思います。
また、ゆっくり歩きながら深く呼吸をすることで副交感神経が活発になり、よく眠れるようにもなりますよ。よかったらぜひ、やってみてくださいね。
(No.97 2022年7月11 日)
味と個性
学生相談室カウンセラー 豊原 響子
この前スーパーで、ししとうの大袋を見つけました。旬の野菜だからかお手頃価格で、 つやつやの緑色も魅力的だったので、調理法も決めないままとりあえず買って帰りました。
その後半分ほどを甘辛炒めにしてみたところ、どうやら激辛ししとうが混ざっていたようで、口から火を噴きながら食べる羽目になりました。ししとう恐るべし。
そういえば、“あまい”を売りにした野菜や果物はよく目にしますが、品種改良されて すっぱく、からく、にがくなったものはあまり聞かない気がします。
日常で使う言葉にも「酸いも甘いも」、「世知辛い」、「苦い思い出」など味を表す表現はたくさんあるけれど、たいてい“あまい”にはポジティブな、“すっぱい”、“からい”、“にがい”にはどちらかというとネガティブなイメージがついて回るようです。
とはいえあま~いトマトよりもキュッとした酸味もある方が夏らしさや自然の魅力を感じるのは私だけでしょうか。同じ味でも食べる人が変われば感じ方も違うだろうけれど…。
こういったことはひとの個性や性格にも通じるかもしれません。“良い人”になろうと 一生懸命努力したらすべての人に好かれるかというとそうでもないかもしれないし、 ひと癖ふた癖ある人柄の方が味わい深くておもしろいなと感じる人もいるでしょう。
そのひとの持ち味というのは、個人の内に閉じられたものではなく、誰かと出会って 話すなかで少しずつわかってくるものなのではないかなと思います。
みなさんそれぞれの持ち味がのびのび発揮される大学生活になることを、今日もひっそり願っています。
(No.98 2022年9月22 日)
足し算と多様性
学生相談室カウンセラー 西浦 太郎
ある小学校の算数の授業でのこと。
先生が生徒に足し算を教えていました。
先生:「みなさん、いいですか。1+1=2ですね。みなさんの身の回りにあるものを1つずつ合わせると、2になりますね。それと同じことです。はい、では、ノートにこれを書きましょう」
生徒は、皆、うなずきました。ノートにペンを走らせました。
すると、一人の生徒が「1+1=2じゃない!」と異を唱えました。
先生がいくら説得しても、その生徒は頑として譲りません。
先生は呆れて「では、それを証明してみなさい。
あなたは算数の概念を変えてしまうつもりですか?」と言い、その生徒はクラスの笑い者にされました。
次の日、その子は学校にねんどを持参し、ねんどを2つの塊に分けました。
「今から、1+1=2じゃないことを見せてやる!」。
「もし、1個と1個を足して2だったら、じゃぁ、これはどうなんですか?」
生徒は、えいっと、目の前の2つのねんどを合体させ、「1つ」のまとまりにしました。
「1+1=2じゃない!1+1=1だってありうるんだ!!」
これは、かの有名な物理学者のアインシュタインの小さい頃の逸話だそうです。
彼は小さい頃、かなりの問題児で落ちこぼれだったそうですが、常識だけに当てはまらない
彼の思考はさすがだと思わされます。
考えてみると、一つしか正解がない世の中というのは無味乾燥で、本当につまらないものです。
本来、解決への道筋が多くある方が、難しい問題が解決される可能性も上がるので、多くのアプローチがあった方が良いのですが・・・。
このことは、人の心にも言えるかもしれません。
私たちも、それぞれ悩みを抱えていますが、何か一つの正しい解決策があるわけではありません。
悩みについて考える多様なプロセスこそが難しいこころの問題にとり大事なのかもしれません。
ただ、この先生にも同情の余地はあるでしょう。30人のクラスに1人このような生徒がいると予定していた授業が進まず大変です。
この先生も人知れず、夜な夜な、やたらと反抗をしてくる生徒に頭を抱えて、教師としての自信を失っていたかもしれません。
近年、国連の影響もあり、「多様性」が注目されています。
確かに美しく、重要な概念ですが、それを維持・実現することは実は、ものすごくエネルギーのいることで、簡単なことではありません。
多様性を認めることは、例えば、アインシュタインのようにクラスの枠や前提を揺らがす人の意見を排除せずに、それを抱えることになります。
この意味で多様性は、単に色々なものや人が存在しているという状態像ではなく、もっと動きのある複雑なものであることがわかります。
多様性は、制度だけではなく、一人一人の内面においてこそ考え、語られるべきなのかもしれません。
(No.99 2022年10月25日)
心の花を咲かせよう!
学生相談室カウンセラー 友久茂子
いよいよ師走、パンデミックによる長い自粛生活がようやく緩み、少し活動的になったと思っていましたら、ウイルスはまた変異し、次の波がやってきそうな気配です。
パンデミックのように、自分の力ではどうにもならないことが起こった時、私たちは神や仏の前で手を合わせて祈りたくなります。
特に年末年始は神仏の前に立つ機会が多いようです。12月31日の除夜の鐘は仏教寺院ですし、初詣は神社です。
日本の神はありとあらゆるモノに宿り八百万の神として奉られており、日本人はそれぞれの目的に添ってお詣りし、さらに先祖の魂としてお墓やお寺にもお参りします。
海外の人から見ると、少し奇妙な宗教観を持っていると思えるようですが、私は、八百万の神さんにも仏さんにも何の違和感なくおまいりし、心を落ち着かせています。
今年も残り少なくなったので、仏教関連の本を開いてみました。その中で中国に禅宗を伝えた「達磨」という僧の「一華五葉(いちげごよう)」という言葉が目に留まりました。
ゲームにもなっている「ダルマさんがころんだ」という遊びは有名ですが、その達磨です。
仏教書には難しい説明が書かれていましたが、要約すると「一つの花は、生まれたときから自分の心の中に咲いており、それを尋ねて行けば、五つの知恵が働き、人生を豊かにしてくれる」という意味です。
少し前になりますが、SMAPが「世界で一つだけの花」で歌っていたことと同じですね。学生相談室で実施しているカウンセリングも、ただ話を聴いてもらうとか、何か解決法を教えてもらうということではありません。
むしろ「一華五葉」と同じで、自分の心の中に咲いている自分の花をより一層輝かせるために、カウンセラーと共に考えることです。皆さん学生相談室を訪ねて、それぞれ心の花を輝かせてみませんか!
(No.100 2022年12月1日)
歩こう 歩こう 私は元気♪
学生相談室カウンセラー 松本 知子
新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。在学生のみなさんは新たな学年が始まりましたね。今年度は久しぶりに全面対面の授業になります。
ようやくいわゆるキャンパスライフを楽しめると思う学生さんもいれば、オンライン授業を上手く活用出来ていた学生さんにとっては切り替えに悩むこともあるでしょう。
対面授業に戻るということは、日々登校することになります。1限始まりだと朝が辛い
ですが、登校することにより、歩くことが増えて健康的に過ごせる面もあります。
大学まで岡本駅や摂津本山駅から歩くと、10~15分かかります。岡本駅を利用する場合になりますが、多くの学生さんはCO-OPに沿った道を歩くでしょう。そちらの道では色んなお店を横目で見つつ、歩く楽しみがあります。
また、あまり知られていないかもしれませんが、山側の出口(大阪梅田方面に向かう電車側の出口)を抜けて歩くコースもあります。そちらになると、住宅街の中を歩くことになり、私はそちらの道が気に入っていて、日々歩いています。
色んな家が並んでいて、壁の色、ドアが木製でおしゃれなものや、表札のこだわり等、ちらちらと見ながら歩き、いつかこんな家に住みたいなと妄想しながら歩いています。
1限だととにかく急いで間に合わなくては、という場合が多くて難しいかもしれませんが、2限以降であれば、少し余裕を持って電車に乗って向かえば、きょろきょろしながら歩いて大学に向かう、ちょっぴり楽しい一時になるかもしれません。
帰り道もそれぞれの家に灯がともっている所を歩くのも当たり前ながら、それぞれに住んでいる人がいるんだなぁと実感したり、灯のともった家の雰囲気を感じながら駅に向かっています。
この山側の道を見つけて歩いている学生さんも見かけますし、こっちの道の方が大学へ
も少し近い利点もあります。また、山側の道を歩くと、実は学生相談室が校舎の中では一
番近くにあります。是非、何かに困ったり悩んだりする際は学生相談室に立ち寄ってみて
くださいね。
(No.101 2023年3月31日)
森林浴のすすめ
学生相談室カウンセラー 渡里千賀
コロナ制限が解除され、街や行楽地も人で混雑するようになりました。日常に活気が戻り嬉しい反面、人の多さや喧噪にしんどくなった覚えはありませんか?
そんな時に、お勧めしたいのは森林浴です。山道や森の中を歩いていると、なんだかとても気持ちがいいですよね。初夏の暑い時期でも、林道は涼しく清々しく感じ、体に良い何かを浴びている気持ちがします。
一体何を浴びたら、こんなに気持ちがよくなるのでしょうか?いっぱいの酸素でしょか? それとも水蒸気? 実は気のせいで実は何も浴びていないのかも・・・。
正解は、木々が出す殺菌物質だそうです。
樹木が発する揮発性芳香物質「フィトンチッドphytoncide」は殺菌力を持ち、微生物の
活動を抑制する作用があり、植物が傷つけられた際に放出されます。人間が浴びるとリフ
レッシュできるのに、虫や微生物にとっては怖い香りであり、近づくこともできません。
自由に動き回ることのできない樹木はこの香りを出すことで、虫などの外敵から身を守っているのです。昔から衣類の虫よけに使われている「ショウノウ(樟脳)」は、フィトンチッドの一種で、クスノキから取れます。クスノキは成長すると巨木になるため、単独で神社やお寺などの目立つところに植えられていることが多いです。
ジブリ映画の『となりのトトロ』にも出ており、その根元の空洞がトトロ達の住み家という設定でした。なんだかとても神々しいイメージの木です。外敵を寄せつけず、傷つけられても感染しないように自ら殺菌できるフィトンチッドのおかげで、数百年も生きる巨木になれるのかもしれません。他にもヒノキやマツ、ヒバなどもフィトンチッドを発散すると言われています。
フィトンチッドは時期によって濃度が違い、6月から8月にかけて最も多く発散されるそうです。よければこれからの時期、散歩がてら森林浴に行ってみて下さい。
近場では、岡本駅の北に位置する保久良山がお勧めです。香りだけではなく、木洩れ日の光や、風の音、鳥の鳴き声なども楽しめますが、くれぐれもイノシシにはご注意ください。
(No.102 2023年4月30日)
“6月”からのプレゼント
学生相談室カウンセラー 長谷雄太
毎年、“6月”が近づくたびに、「ああ、今年も6月が来てしまうな」と思う自分がいます。
GWという華やかな期間が過ぎ、待ち受ける祝日の無い1ヵ月…じわじわと上がっていく
気温…。
そして最も特徴的なのは、長期間雨が降り続ける、そう、“梅雨”です。
私だけでなく、“6月”や“梅雨”に良いイメージを持ちづらい人も少なくないかもしれません。
そんな感覚を抱きながら、先日雨の中大学に向かっていたのですが、ふと周りを見渡してみると、壁に張り付いたコケが目に留まりました。
晴れた日は、薄い白みがかった緑色をしているのですが、雨に濡れたコケは深い緑色になっており、とても綺麗でした。6月と言えばアジサイが代表的ですが、アジサイも晴れた日と雨の日では色が変化するものも多いと言われています。
ちなみにアジサイの英名は「ハイドランジア」だそうで、これは“水の器”という意味らしいですよ。意識しないと気づかないものですが、雨って見えている世界を少し変えてくれているんだなあ、と思いました。
さらに、雨は音も消してしまいます。雨で人が外出をしなくなるだけでなく、雨音によ
ってたくさんの音が遮断されて、いつもより静かに感じるのではないでしょうか。
あんまり激しいと不安になりますが、一般的な雨音には「1/fゆらぎ」という特性があり、リラックス効果もあるそうです。ある意味で、4月・5月と新しい環境の中で必死に動いてきた人たちを、雨が落ち着かせようとしてくれているのかもしれません。
外出がしづらく、晴れやかな気持ちとはなりづらい季節ではあるでしょうが、その一方
で私たちに癒しを提供しようとしてくれているのがこの“6月”なのかも、とも感じます。
みなさんもぜひ、雨の日に少し顔をあげて歩いてみてくださいね。
(No.104 2023年6月1日)
じつは身近な絶滅危惧種
学生相談室カウンセラー 高石恭子
みなさんは、「絶滅危惧種」と聞くと、一番に何を思い浮かべますか。
自然破壊や気候変動により、世界中で多くの生物が種の絶滅の危機に瀕しています。
日本では、すでに絶滅した代表としてトキ(ペリカン目トキ科の鳥類)が知られていますね。最後の純国産トキ(キン)が2003年に新潟県佐渡島で死亡して以来、再繁殖活動が行われているのは中国産のトキです。
独自の進化を遂げた希少種が多く生息し、手厚く保護されている南の島ガラパゴス諸島でも、地球温暖化の波には勝てず、存続を危ぶまれる動物が多くいます。
かつて、孤島で食料の危機に瀕したイグアナのうち勇気あるものたちが海に潜り、水中の藻を食べて生きのび、ウミイグアナとして繁殖したことは有名です。最大20mは潜れる世界で唯一のトカゲ類です。
しかし、1990年代以降、エルニーニョ現象の発生頻度の増加による水温の上昇が海藻類の生育を邪魔し、ウミイグアナは激減して、今はIUCN(国際自然保護連合)によってVU(Vulnerable:絶滅の恐れが高い「危急種」)に指定されています。
さて、佐渡島や赤道直下の島の「遠い」話だと思わないでください。
甲南大学のキャンパス内にも、じつは絶滅危惧種がたくましく生息しています。
「甲南大学学生相談室新型コロナウイルス特設サイト」上でも紹介しましたが、学生相談室のある18号館の水庭では、兵庫県のレッドデータブックで絶滅危惧種のBランクに選定されている、モリアオガエルが今年も産卵し、おたまじゃくしが育っています。
六甲山系の自然と水は、おいしいお酒を造るだけでなく、生きづらくなった都会の一角で、貴重ないのちを守ってくれているのですね。
少数派になった生き物が高らかに鳴き声を響かせ、歌える環境は、誰にとっても生きやすく安心できる世界ではないでしょうか。
ぜひ、梅雨が明けてカエルたちが森へ帰っていく前に、一度、18号館に足を運んでみてください。運がよければ、その素敵な姿に出会えると思います。
(No.105 2023年7月1日)
“マイ・ペース”を見つけよう
学生相談室カウンセラー 松本知香
みなさんは夏休みをどのように過ごしましたか?
バイトやサークルに打ち込む、旅行に行く、懐かしい友人に会う、帰省する、好きなことや趣味に没頭する…
ゆっくり自分の時間を堪能した人や、忙しく充実した日々を過ごした人など、人それぞれ色んな夏休みを過ごされたことと思います。
ただ、多くの人が大学の授業期間中とは違う生活リズムで過ごしていたのではないでしょうか。オールして友達と喋ったりゲームしたり、昼近くまで寝たりするのも、大学生の夏休みの醍醐味ですよね。私も大学生の頃は長期休みになると昼夜逆転しがちだったものです…。
しかし夏休みが終わり、後期の授業が始まると、生活リズムを元に戻していかないといけなくなります。朝起きて大学へ行き、前期と同じように授業を受け、課題をこなさなければならないからです。
そうなると、まじめな人は授業が始まった初日から急に生活リズムを変えてフルスロッ
トルで頑張ったりします。あるいは、なかなか朝起きる生活に戻せず午前中の授業をあき
らめてしまう…といってしまう人もいるでしょう。
もちろん、そのようなあり方が良くないわけではありません。
ただ、今のペースが本当に自分に合っているのかな?ということは気にしてほしいと思います。最初から頑張りすぎて途中で息切れしてしまわないか?
生活リズムをなかなか整えられず心身が疲れてしまわないか?と自己モニタリングし、もし
自分にとって今のペースが合っていないかもと感じたら、ぜひほかのペース配分もチャレ
ンジしてみて下さい。
例えば、最初の2週間くらいは予定を詰めすぎず回復日を設ける、30分ずつ起床時間・活動時間を早めてみるなどができるかもしれませんね。
そして自分にとってぴったりの“マイ・ペース”を見つけてみてください。
(No.106 2023年9月15日)
ひらいてとじて
学生相談室カウンセラー 豊原響子
後期の授業が始まって、早くも約1ヶ月が経ちました。猛暑の夏がようやく過ぎたかと思えば、その後は急激に冷え込んで、秋はどこへやらという感じですね。
短い間かもしれませんが、食欲の秋、芸術の秋、スポーツの秋、読書の秋、いろんな秋を楽しみたいものです。
最近は外の空気も随分爽やかになったので、私は気が向いたら窓を開けて、秋の風を部屋に入れるようにしています。
たまに外を歩いていると、同じように窓を開けている家もあるのか、焼き魚や煮物のようなおいしそうな匂いが漂ってくることがあって、なんだか嬉しくなります。
窓が開いていると、風を中に取り入れることもできるし、部屋にこもった空気を外に出すこともできるんですね。
夏でも冬でも同じようにできなくはないのですが、冬の気配を含む爽やかな風を楽しめるのは、やっぱり秋ならではだなと思います。
一方で、窓や扉を閉め切って内にこもることも、時には必要な気がします。そこでは“やらないといけないこと”を片づけるもよし、“やりたいこと”に取り組むもよし、ただぼんやりするもよしです。
もしかすると最近はスマホを触る時間も増えて、ただぼんやりする機会はあまりないかもしれません。むしろぼんやりするのは悪いことで、常に何かしていなければいけない!という気持ちに追い立てられている人も少なくないでしょう。
あるいは自分の“やりたいこと”が何なのかわからないという人もいるかもしれません。
大学生という期間は、自分で時間割を決めて、所属するゼミや進路を考えていくように、自分ってどんな人なんだろうということを考える機会が多くなる時期ではないかなと思います。
そんなとき、自分の声をじっくり聞いてみること、誰かと会って話してみること、どちらもせずにぼんやりひと息ついてみること、そのどれもが大切になるのではないでしょうか。
学生相談室も、皆さんがそんな時間を過ごせる場所になればいいなと思っています。
(No.107 2023年10月23日)