新入生・在学生の皆さんへ
不確実さに耐える力~曖昧耐性~を身につけよう!
甲南大学文学部教授・学生相談室カウンセラー
高石 恭子
今年の春は、2008年のリーマンショック以来と言われる新型コロナウイルス感染症による社会不安に見舞われ、落ち着かない新学期となりました。とりわけ新入生のみなさんは、入学式に集うこともなく、クラスメートと握手を交わすこともなく、課外活動のサークルに勧誘されて先輩にご飯をおごってもらう機会もなく、「大学生」になった自覚を求められるという未曾有の事態に直面しています。
授業がやっと始まったと思えば、すべて自宅から遠隔受講という大学が多いと思います。ライブ配信の授業に自宅からうまく接続できなかったり、ウェブ提出のレポートを書いていてちょっと考え事をしている間にタイムアウトになり消えてしまったり、ゼミのビデオミーティングの画面上でいきなり自己紹介しなさいと言われたり・・・とパニックの連続です。
VOD(ビデオ・オン・デマンド)の授業は、寝坊しても受けられる反面、受けて出さないといけない課題がどんどんたまっていきます。疲れたからさぼる、という手段も使えません。こんな状態がいつまで続くのだろうと、ニュースを見れば心配ばかり募ります。
自分や社会がこの先どうなるのかわからないという不安は、ボディブローのように私たちの心を痛めつけ、平常は理性でコントロールしている怒りや攻撃性を暴発させることが起きてしまいます。社会的距離をとるために普段は昼間家にいないはずの家族が24時間一緒にいると、お互いの心理的距離がうまくとれなくなって、イライラが募ったり、けんかが増えたりしがちです。
もしあなたが必死でライブの遠隔授業を受けている背後で、いつものようにお母さんが掃除機をかけ始めたら、「いい加減にして!」と声を荒げてしまうことがあってもおかしくないですね。
そのような心無い行動に出てしまわないよう、また自分の不安を鎮めるために利己的な行動(衛生用品の買い占めなど)に走らないようにするには、どうすればよいでしょうか。
心理学には、「曖昧耐性ambiguity tolerance」という言葉があります。不安になると、人は早く白黒をつけてしまいたくなるものですが、グレーはグレーのまま、決まらないものは決まらないままに置いておける能力のことです。
「あいまい」というと、マイナスのイメージをもたれるかもしれませんが、実は、人が生きていく上では何が正しいかはすぐわからないことの方がずっと多いのです。曖昧耐性=不確実さに耐える力は、よりよく生きるために、多様性を抱える力、待つ力、と言い換えてもよいでしょう。
ぜひこの機会に、みなさんも意識して「曖昧耐性」を身につけてください。「この判断は正しいか、誤りか」と二分法で考えず、何%ぐらい妥当かな、と考える癖をつけるのです。それでも不安でたまらないという人は、どうぞみなさんの大学の学生相談室にいるカウンセラーに話してみてください。不安を話す=離すだけでも、曖昧耐性はアップするはずです。