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学生が自殺をほのめかしたら

自殺をほのめかされたとき

Q.1

学生から自殺をほのめかす電話や電子メールなどを受け取ったとき、またいつもと違う様子が感 じられて気になったとき、どのようにかかわればよいでしょうか。

A1

 突然「死にたい」というような自殺念慮を打ち明けられたときは、誰しも狼狽したり不安に駆られたりしますが、打ち明ける大多数の人は、意識的・無意識的に、聴いてもらえる、あるいは聴 いてもらいたい人を選んでいると言われます。それだけに、十分時間をとって真剣に耳を傾けて聴くこと が、問題解決の最初の糸口になり、自殺予防の第一歩となります。当たりさわりのない励ましは禁物です。

 

 話をそらさないで、きちんと向き合う姿勢が大事です。たとえ最初は黙っていても、沈黙でしか表せない ほどの苦しい思いが少しでも受け止められれば、徐々に落ち着きを取り戻して、今の状況を話せるように なっていきます。とくに電話の場合は、現在どういう状況にあって、どこから発信しているのか、すでに 何らかの行動を起こしているのか否かを見極めることが大事です。

① すでに行動を起こしている場合

 本人の行動を制止し、応急処置を指示してください(一歩下がりなさい、止血をしなさいなど)。また、 必要に応じて家族や友人への連絡、救急搬送や警察の保護を依頼するなど、危機対応が必要です。その場 合、動転して一人では適切な判断ができないこともあるので、学生部や学生相談室に別の回線から電話す る、または医務室に連絡して看護師の指示を仰ぐなど、ためらわず協力を求めてください。

 

② 緊急度が高くないと判断される場合

 

 学生自身が少し落ち着いてやり取りできるようになれば、いつから自殺を考えるようになったのか、何 かきっかけがあったのかなど、聴ける範囲で確認し、本人の生きづらさを受けとめ、それを伝えることが 大事です。希死念慮は、心理的に大きな負荷がかかっていて悩みとして抱えられないとき、あるいは何ら かの身体疾患や精神疾患がある場合に生じやすいと言えます。「死ぬこと」以外の選択肢や、本人の中に ある「生きたい」気持ちにたどりつけるまで、長い時間を要することもあります。いったん落ち着いた様 子が確認できたら、次に会う約束や、連絡を取る約束をしてみてください。その場合も、継続して一人で 相談を受けるのは大変なエネルギーがいるので、本人の気持ちを尊重しつつも、できるだけカウンセラー や医師を紹介し、連携しながら支えることが必要です。

 また、自殺のサインは態度に現れる場合もあります。これまで関心のあったことに興味を失う、身なり に構わなくなる、突然不安定になって沈み込む、攻撃的になるなどです。逆に、急に明るくなる、澄み切 ったような落ち着いた態度で身辺整理をするなど、これまでと違う様子が見られた場合も要注意です。学 生の様子が気になったときは、さりげなく、少しゆっくりと話し合う機会を持っていただければ、突発的 な行動化が防げるかもしれません。

③判断が難しい場合

 最近はこのような SOS が、電話よりも電子メール(ときには LINE メッセージなど)で送られること が多いと思います。発信と受信にタイムラグが生じ、また文字だけでは緊急性を判断することが困難です が、気がかりを小さく見積もらないで、メッセージに気づいたその時にできる誠実な対応(すぐに返信す る、会える日時を連絡するなど)をしてください。

 希死念慮や自殺企図をほのめかすメッセージは、ゼミやクラブの友人宛に送られ、周囲の学生が密かに 抱え込んで悩んでいる場合もあります。青年期は、「大人の手を借りず、自分たちで何とか解決したい」 と思う年代でもあり、相談を受けた学生が心身の調子を崩し、学業に支障をきたす場合もあります。その ような学生の状況に気づいたときには、どのように対応するのがよいかをカウンセラー(学生相談室)に 相談に行くよう、勧めてみてください。

学生同士のトラブル・被害

学生同士のトラブル被害を打ち明けられたとき

Q2

 顧問をしている課外活動の合宿中に、男子学生が酒に酔って、集団で複数の女子学生に性的な行 為をしようとしました。翌日お互いに話し合い、男子学生側が謝罪をして解決したかに見えまし た。

 

 しかし後日、「あれはふざけただけ」と反省の色のない男子学生を、先輩学生が殴って怪我をさせ、さらに、被害者の女子学生の一人が「退部し、慰謝料を支払わなければ、ネット上にこの ことをアップする」と、男子学生側に書類を送ったとのことです。このような事態について、部 員から相談を受けた場合、どのように対応すればいいでしょうか。

A2

 普段はまじめでごく普通にみえる学生も、飲酒により抑制が効かなくなることはあります。そのような問題は若い学生ばかりではなく、大人社会でもしばしば見聞きすることですが、それが犯 罪とみなされるかどうかは、時代の変化と関連があります。つまり、欧米に比べて、日本には飲酒による 逸脱行動に対しては寛容な文化があり、特に男性が女性に対して、からかい半分に多少暴力的な行動をし ても許される風潮がごく最近までありました。しかし、ジェンダーによる差別が問題視される今日では、 たとえからかい半分であっても、このような学生の行動は性的暴力であり犯罪行為と考えられす。

 

 この例の女子学生も「(相手が)謝ったのだから仕方ない」と一度は我慢しようとしたのでしょうが、 心に納まりきらない思いがあったと考えられます。しかし、それを理由にして、退部を強要し、金品を要 求し、それに応えなければ、「ネット上にアップする」というのは、相手を脅していることになり、これ も犯罪的行為にあたります。また、先輩学生の行為は正義感から出たものだとしても、けがをさせるよう な行為は暴行であり、決して許されることではありません。

 教職員として、このような相談を受けた場合にまず大切なことは、大学は警察や裁判所ではなく「教育 の場」であるという大前提を忘れないことです。加害者と被害者を生み出した不幸な出来事ですが、何が あったのかを学生が自覚し、そこから人間としてあるべき生き方を学べるような対応が求められます。具 体的には、相談に訪れた学生の不利益が生じないように配慮しつつ、当事者となった学生それぞれから、 その時の状況や気持ちを丁寧に聴くことが大切です。加害者とされる学生の側にも、過去の傷つきや、乗 り越えるべき心理的課題を抱えている可能性があります。聴く姿勢をこちらが示せば、こころを開いて正 直に話してくれることが多いものです。その上で、過度の飲酒による逸脱行動、暴力や脅迫など犯罪的行 為は決してしてはならないこと、また、自分をコントロールする力が、これから社会に巣立つ大学生に求 められることを、明確に伝える指導が必要です。

 

 また、場合によって、それらの学生の行動が学則上の処分の対象になる可能性を伝え、教職員として厳 しい姿勢を見せることが大切です。(処分の決定に至る手続きの流れについては、ガイドブックの 12 頁を参照)。話 の内容から犯罪性が高いと判断された場合は、被害者に学生部に届け出るよう促したり、同行することが 必要です。関係者の話合いの経過によっては、警察へ訴えたり、出頭したりするよう勧める場合もあるか もしれません。いずれにしても、当事者の学生が指導に納得せず、それ以上の対応が難しいと思われると きは、学生部に相談してください。

 

 加害・被害に関わらず、こころのケアが必要と感じられる学生につい ては、学生相談室の利用を勧めるか、一緒に来室してください。

さらに、このような学生は、同様の行動を再度繰り返す可能性もありますので、教職員間で情報を共有 し、連携を図りながら、学生たちを見守り適切な支援をすることも必要です。この機会をとらえて家族(保 護者)にも連絡をとり、学生を支える協力者になっていただくことが有効にはたらく場合もあります。

学生がつきまとわれて恐がるとき

Q3

ゼミの女子学生に、クラブで一緒の男子学生から度々一方的な LINE のメッセージが来たり、帰 りにつきまとわれて困っている、盗撮もされているようだと相談を受けました。どうアドバイス したらいいでしょうか。

A3

 不安な気持ちを受け止めるとともに、学生のプライバシーに踏み込みすぎないよう配慮しながら、事実関係(どのような内容か、どれくらいの頻度かなど)を訊いて下さい。女子学生が、男 子学生の行為に恐怖を感じ、直接のやり取りでは事態を改善できないと意識しているなら、当事者同士の 解決を促すよりも、第三者の援助を求めることを勧めてください。「はっきりノーを言いなさい」という 助言は、トラブルの初期の対応では有効なこともありますが、教職員に相談してきた時点では、すでに直 接対応してこじれてしまっている場合が多いからです。

 この例では、まず、被害を受けて不安になっている女子学生が安心してクラブに参加出来るように配慮 する必要があります。第一歩として、その女子学生が信頼出来る部員に事情を伝え、誤解を解いた上で女 子学生が一人きりにならないよう力になってもらうようにしましょう。女子学生がクラブを当分休みたい という気持ちならば、役割をしばらく誰かに替わってもらうなど、部員の協力が大切になります。その方 法がうまくいきそうにないときは、本人の了解を得てクラブ顧問の教員やコーチに連絡をとり、実情を伝 えて連携を図るのも一つです。

 女子学生が、相手の学生を呼び出して指導してほしい、処分や注意をしてほしいという明確な意思を持 っているなら、学生部に届けるよう勧めてください。学生部では事実関係を聴取し、加害学生への対応を 検討するとともに、被害を受けている学生の保護に努めます。この場合、被害状況についての記録や、届 いたラインメッセージ等を消去せず残しておくことが大切になります。

 

 被害を受けた女子学生が心身に不 調を来したり、強い不安や恐怖を抱えている場合は、学生相談室を利用するよう勧めてください。また、 学生相談室では、クラブの同回生や先輩がこの状況にどう対応していけばいいのか、女子学生をどう支え ていけばよいか、カウンセラーに相談しながら一緒に考えていくこともできます。つきまとっている側の 学生も何らかの心の問題を抱えている可能性があり、学生相談室と連携して対応することが有効です。

 つきまとい行為は、その程度と性質によってはストーキング犯罪になります。悪質な場合、また学外者 が加害者であるような場合は、兵庫県警が開設する 24 時間対応のストーカー・DV 相談電話 (078-371-7830)か各警察署相談窓口でも対応しているので、相談することを促して下さい。

 また、ほとんどの学生がスマートフォンを使用しており、写真を撮ることの気軽さから、あまり犯罪と いう意識を持たずに盗撮する例も増えています。盗撮は犯罪行為です。

 

かりに、交際中の相手にプライベ ートな写真を撮られ、そのときは気にしていなくても、別れた後に「リベンジポルノ」(腹いせに性的画 像をネット上に流出させること)におびえる例もあります。そういった深刻な事態が発生している場合に は、兵庫県警本部サイバーセキュリティ・捜査高度化センター(078-341-7441)などの専門窓口がある ことを、学生に伝えてください。

 学生の多くはネット使用環境にあり、インスタグラムやライン、ツイッター、フェイスブックなどの SNS を利用しています。いずれも便利なツールではありますが、SNS の過剰使用により対人関係に負担 を感じたり、不快な思いをすることがあったり、ツイッター上の発言内容によっては社会問題になる場合 も多く生じています。トラブルを未然に防ぐためにも、使い方には慎重になるよう指導してください。

学生に「アカハラを受けた」と言われたとき

Q4

A4

 たとえ叱咤激励のつもりであっても、「指導できない」「卒業させられない」といった発言は、それが指導教員からの不当な拒否や圧力と学生に受け取られた場合には、アカデミック・ハラスメ ントとなります。

 

 指導する(権限を持つ)立場にある者は、常に自分の言動が「教育上適切なものか」「学 生の人格を傷つけていないか」と意識しておかなければなりません。この例の場合も、「卒業をさせる・ させない」という権限が教員個人にあるわけではないのは明らかなので、「このままでは卒業が難しいの ではないかと思う」という表現に留めるのが適切な対応だと考えられます。

 

 相談を受けた事務室としては、 そのことを念頭に置きながら、まずはその学生と指導教員との関係修復に向けた対応を学部・学科で行い、 そこでの解決が難しいと判断された場合には学生部と連携を図っていく必要があります。

 また、この学生のように、先輩という優位な立場にある者が後輩の生活環境や学習意欲を著しく阻害す るような不適切な言動を行うことは、それが意図的であるか否かは問わず、パワー・ハラスメント、あ るいはいじめと言うことができます。これらに性的な要素が加わったものがセクシュアル・ハラスメン トであり、それらを総称してキャンパス・ハラスメントと呼びます。

 ただし、学生間で起きていることの場合、教職員からはパワー・ハラスメントだと見えたとしても、ま ずは二人の関係に目を配り、被害者と思われる学生の話を聴き、しっかり支えてあげてください。周りの 支えを得ることで、学生は自分の不快な思いや意思をはっきり表現できるようになることもあります。

 自 分の思いを話し、教職員の支えを得て安定することで、直接両者間で解決の可能性が出てきます。あるい は、上級生の行為が目に余る場合は、人生の先輩・指導者として教職員からアドバイスすることで上級生 が態度を改め、解決への道が開かれることもあります。

 このように二人の関係の中で解決する方法を探っても、どうしてもうまくいかないときは、学生部に相 談してください。あるいは、被害を受けている学生が不安感や恐怖感を強く抱いていて、他の人に知られ たくないと思い詰めているときは、学生相談室へ行くように勧めていただくか、一緒に来室してください。 学生相談室では、ハラスメントについても通常の守秘義務を守った形でまずは相談を受けます。

 

 その上で、 被害者としてハラスメントの苦情を申し立てるという意思確認ができた場合は、学生部につなぎ、その先 はキャンパス・ハラスメント防止対応委員会による苦情相談・対応の手続きに則って、対応を進めていく ことになります。 教職員がこのようなハラスメントの加害者にならないためには、まず相手の立場になって考えてみること です。

 

 しかし、生活環境も年齢も考え方も異なる相手の立場になることは、そう簡単ではありません。そ こで、案外役に立つのは自分について客観的に考えてみることです。自分の性質や行動パターン、思考方 法の特徴などに思いを巡らせてみると、周りとの違いに気づき、「自分の言動は相手を傷つけてしまうこ とがあるのかもしれない」と思い当たることがあります。

 

 日頃からそのような習慣を身につけ、自分の考 えを周囲の人に聴いてもらうようにしておくことで、ハラスメントの加害者になることを防ぐことができ るでしょう。

学生が全く授業に出てこないとき

Q5

今学期に入ってから全く授業に出てこない学生がおり、気にかかったまま時間が過ぎています。 どのように対応するのがよいのでしょうか。

A5

 長期欠席には、さまざまな理由や背景が考えられます。周囲の友人などに様子を尋ねても、具体的な状況がわからないときには、長く放置せず、まずは可能な範囲で学生の状況を把握するよう にしてください。一部の授業だけでなくほとんどすべての授業について同様に欠席が続いているのか、課 外活動への参加があるかなど、学内での適切な情報共有により、ある程度学生の状態を把握することが可 能になります。

 その学生が、いわゆる不登校ひきこもりの状態にあると思われる場合には、昼夜逆転の生活をしてい ることも多いので、まずメールで様子を尋ねるか、時間に配慮して電話をかけるなどの連絡を試みてくだ さい。本人が応じれば、そこから緊急性を見定めて次の対応を考えます。睡眠や食事が摂れないような状 況が数週間以上続いていないか、話し方や話の内容に不自然さや違和感がないか、などが判断の材料にな るでしょう。

 

 本人が一人暮らしで、全く大学に出てこられないような状況であれば、できるだけ本人の了 解を得て家族に連絡を取り、現状を知らせて対応への協力体制を整えることも大事です。緊急性が高いと判断されたとき、たとえば希死念慮が強いとか、寝食を含めた最低限の身辺の世話が全 くできていない、ずっと独り言を言っているなど、病的な印象のある場合には、学生相談室、あるいは精 神科クリニックなどの専門機関への相談を勧めてください。本人が動けない場合は、教職員の方からご連 絡ください。

 

 また、緊急ではないが深刻であると判断されたとき、すなわちひきこもった状態が長期化し ている場合(明確な基準はありませんが 3~6 か月以上を一つの目安としてよいかと思います)には、公 的な相談窓口として各自治体の保健所や精神保健福祉センター、NPO 法人などの民間機関があることを 家族に伝えてください。

 

 なお、専門機関でもそれぞれに対応の範囲が違い、本人が出向けなくても相談が できたり、訪問支援を行ったりしている機関もあるので、電話等で事前に確かめると安心です。家族が少 しでも安定し余裕を持てると、即時の問題解決につながるわけではなくとも、本人にとってもプラスには たらくことが多いので、適切な相談先を探す手助けなど、家族を支える関わりも非常に大切です。

 そこまで深刻ではなく、しばらく休養を取ることで回復し、学業に復帰していけることもあります。そ の場合も、ただそのまま放っておくのではなく、本人の方から連絡を取りたいと思ったときには誰にどの ように連絡すればよいのか明らかにしておき、本人が求めれば手助けをする準備がある、というメッセー ジが伝わるようにできるとよいでしょう。

 

 授業には出席できなくても大学には出てこられるなら、学内で 何かしらの継続的な人間関係を持つことが大きな支えになります。本人に参加の責任がかからないよう な、ゆるやかな居場所があることが有用な場合もあり、たとえば学生相談室で開かれている定期的なグル ーププログラムなども活用できるかもしれません。社会的な活動からひきこもり休むのは、そうすることが今その人にとって必要だからこそ、とも言えます。 長い目で見れば、しばらく休んでも大学生の間にしっかりと態勢を立て直す方がよいこともあるでしょ う。

 

 また、本人自身「このままではまずい」と感じながらも動けず、不安と焦りでさらに消耗していて、 周囲が解決を急ぐと、わずかに残っているエネルギーまで奪ってしまうこともありえます。休んでいるこ とを否定的にとらえ過ぎない広い視野を持つことが、かかわる教職員に求められていると言えるでしょ う。

学生が話しかけても黙り、反応しないとき

Q6

 教室でいつもうつむいており、話しかけても反応がなく、緊張気味の学生がいます。あるとき、 「何か心配なことがありますか?」と尋ねたら、黙ったまま涙を流していました。

 

 何か事情があ るのかと心配ですが、別の日には学内で楽器をかついで楽しそうに友人と歩いている姿も目撃し ました。

 

 こういう学生はどう指導したらよいでしょうか。

A6

 青年期は、急速な心身の変化を受け止め、親から心理的に離れて仲間との関係を作り、社会に参加していくことが課題となります。このようなアイデンティティ形成の途上において、一過性に 自意識が高まり、現実と理想のギャップに悩み、他人の目や評価が過度に気になることは少なくありませ ん。この学生も、そういった心理的な課題を抱えている可能性があります。いわゆる社交不安障害(昔で いう「対人恐怖」)の状態にあり、通学の電車内や、授業のような集団場面で、人の視線が気になったり、 息苦しくなったり、声が出なくなったりします。その症状は、配慮や気遣いを要しない家族や親友のよう な間柄の人や、全く見知らぬ人に対しては生じにくく、顔見知り程度の人に対して主に生じます。

 

 これらの症状にもさまざまな程度があり、クラスの学生や教員に「どう思われているんだろう」「馬鹿 にされるんじゃないか」と気にしつつも、何とか自分を奮い立たせられる状態から、後ろの学生たちの私 語が自分への悪口に聞こえる、皆に見られている、といった思い込みで頭がいっぱいになってしまう状態 まであります。思い込みが高じると、授業時間そこに居ることは苦痛でしかなくなり、実際に「悪口」や 「視線」を遮断するためにイヤホンで音楽を流し続ける、マスクやサングラス、帽子を被り続けるといっ た自己防衛策を取ることも出てきます。それでも耐えがたくなった場合は、教室に入れなくなり、やがて 家からも出られなくなります。

 

 学習態度や成績など総合的に考えて、こういった心の課題が背景にありそうだと想定できる場合には、 教室など人のいるところで指導するのではなく、1 対 1 で、別の機会に、ゆっくり事情を聴くようにして みてください。学生自身も自分の不安や症状の不合理さに気づき、悩んでいる場合が多いものです。密か に悩んでいることがわかったら、「そんなのは気のせいだ」と励ますのではなく、つらい経験をしている ことを受け止めてあげてください。すでに中学・高校時代から相談や治療を受けている例も少なくありま せんが、そういった経験がない場合は、学生相談室のカウンセラーや医師への相談を勧めてみてください。

 

 青年期に発症しやすいこころの病のうち、不安を中心とする様々な心身の症状を呈するものはほかにも あります。例えば、パニック障害は、ある日突然、息切れ・めまい・動悸・頻脈・震え・発汗・消化器症 状・離人感・しびれ・紅潮・冷感・胸痛などの症状が発作的に生じ、繰り返し、慢性的に経過します。発 作時にはこのまま死んでしまうのではないかという強烈な不安に襲われますが、救急で病院に着いた頃に は鎮まっていることが多く、実際に命にかかわることはまずありません。しかし、またパニック発作が生 じるのではないかとの予期不安で家を出られなくなるなど、大学生活に支障をきたすことも少なくありま せん。

 

 また、不安を観念や行動によって解消しようとするこころの病もあります。強迫性障害は、家を出ても 鍵をかけたか不安になり何度も確認しに戻る、帰宅すると外出先でのバイ菌がついているのではないかと 何十分も手を洗うなど、「無意味ないし不合理」と頭ではわかっているても、その観念や行動に支配され てしまう状態です。ひどくなると、起きてから家を出るまでに何時間もかかり、遅刻・欠席、課題が出せ ない、集中力がもたないなどの問題が出てくることもあります。

 不安は様々な形で症状となって現れるため、そこに潜んでいるこころの病を見分けることは簡単なこと ではありませんが、まずは安心できる場所で、きちんと自分の話を聴いてもらえたという体験が得られる ことが大切でしょう。

学生が急激に痩せてきたとき

Q7

ゼミに、最近急激にやせてきた女子学生がいます。太っているとは見えないのに、過度なダイエ ットをしているようです。このような学生にどう対応すればよいでしょうか。

A7

 急激にやせてきて、それが身体的な病気によるものでないならば、摂食障害である可能性が考えられます。摂食障害とは、食行動を中心にさまざまな問題が生じる精神疾患で、若い女性に多い と言われています。食欲や食行動の異常だけでなく、体重に対する過剰なこだわりがあり、体重・体形が 自己評価に過剰な影響を及ぼすなど、心理的要因が根底に存在していることが特徴です。

 

 摂食障害は、食 べられなくなる拒食症(神経性食欲不振症)と、食べることがやめられない過食症(神経性大食症)に大 別されます。拒食症は、自分自身の体形に対して歪んだ認識を持ち、極端な食事制限と著しいやせが見ら れます。過食症は、短時間に大量の食べ物を摂取した後、体重の増加を防ぐための不適切な代償行動(自分で指を突っ込んで吐く、下剤や利尿剤を乱用する、過剰な運動や絶食をするなど)を繰り返します。

 原因については、勉学や部活動の過重、受験や就職活動の失敗、人間関係の悩み、家庭内での葛藤など、 さまざまな心理的・社会的ストレスが影響すると言われています。また、個人側の要因として「真面目」 「負けず嫌い」「完璧主義者」である人ほど、目標や理想が高いため挫折感を経験しやすく、その場合に 体形や体重で自分の価値を見出そうとする人ほど摂食障害になりやすいと言われています。人と自分の容 姿を比べて少し太っていると感じたときや誰かに指摘されたとき、体重をコントロールすることで自尊心 を高めようとして極端な食事制限をし、そこから抜け出せなくなってしまうのです。

 非常にやせているにもかかわらず、たくさんの予定を抱えて活動的に動き回り、学業においても優秀な 成績を修めていることも少なくありません。しかし、低栄養状態が続くと生命の危機に直結することもあ り、早急な医療的対応が必要となる場合があります。低体温、低血圧、徐脈になり、疲れやすかったり、 動悸がしたりします。また、脂肪が減ると女性ホルモンが減少し、無月経や骨粗鬆症になってしまうこと もあります。過食嘔吐を伴う人は、嘔吐や下剤の乱用によって血液中の電解質のバランスが崩れるので、 心臓に直接影響を与え、不整脈になったり、最悪の場合心臓が止まることもあり、大変危険です。

 摂食障害が疑われる学生に対して、一般的にこういう対応をすればよいという正解はありませんが、少 なくとも「客観的に見てやせているか太っているかが問題なのではない」ということは頭に置いておいて 下さい。他人から見て明らかにやせ過ぎている場合でも、本人からすればまだまだ太り過ぎていて、もっ とやせなくてはいけないと思っていることが多いのです。

 

 青年期に起こりやすい、これと似た精神疾患に 醜貌恐怖がありますが、これも客観的な容姿とは関係なく、自分の外見の一部が異常であると思い込むこ とが主症状です。いずれも、「それはあなたの思い込みだ」と説得することは、症状の改善にはほとんど 役立ちません。

 拒食でも過食でも、本人にとっては症状を自分でコントロールできずつらい状態にあります。慢性化し た場合は自然に治癒することは難しく、身体面と心理面の両方のケアが必要となります。周囲が病につい ての適切な理解をもって専門治療を勧めることが回復のきっかけとなりますので、このような学生に接し た時は、病院受診や、学生相談室へ行くことを勧めてみて下さい。

 

 拒食症の場合は、「やせ過ぎだから」 という理由で心療内科や相談室を勧めても抵抗感が強いことが多いので、むしろ食行動の乱れによって起 こる体調不良に関して心配していると伝え、まず内科や婦人科の受診を勧めるほうがよいでしょう。過食 症の場合は、本人が過食嘔吐をやめたいと思っていることも多いので、このような相談を受けた場合は、 「やめたくてもやめられない」状態を理解して話を聴き、学生相談室という相談の場があることを伝えて みて下さい。

学生が脈絡のない言動をし、不安定なとき

Q8

現実的ではないことに怯える、話す内容が理解しづらく脈絡のない独り言のようであるなど、精 神的に不安定に見える学生と遭遇することがありますが、

そういった場合の留意点はありますか。

A8

 授業中や窓口で、言動が理解しにくく、何かおかしいと感じられる学生に出会ったり、一方的に話しかけられたりすることがあります。統合失調症のような心の病が原因である可能性も考えら れ、その場合は専門的な援助を必要とするので注意が必要です。

 

 統合失調症はかつて「精神分裂病」と呼ばれており、特殊で深刻な病気だと思われていました。その原 因の一つに「患者数が少ない」という誤解がありますが、実際にはだいたい 100 人に 1 人の割合で起こ る身近な疾患で、脳血管疾患、ガンとほとんど変わりません。多くは 10 代、20 代の若い時期に発症する ため、教育現場においてもよく理解しておく必要があります。この疾患により、心身の調子が悪化し、学 業に支障をきたし、やがて意欲喪失や自宅への閉じこもりに至る恐れがあるのです。

 症状は、幻聴(悪口や命令する声が聴こえるなど)、被害妄想(嫌がらせをされる、笑われる、追いか けられると思い込むなど)、作為体験(自分の意志ではなく誰かに動かされているなど)といった陽性症 状のほか、一見「うつ」と間違えるような陰性症状もあらわれます。

 

 陽性症状は、神経の興奮がひどく過敏になるために起こり、例えばイライラして怒りっぽくなるなど他 人とのかかわり方に変化が起こります。幻聴や妄想に対しては、周囲は「説得しない、否定しない、言いなりにならない」対応が望ましいとされています。本人にとっては真実である以上、それが誤りであると 納得させることはできません。幻覚妄想状態にあるとき、本人は追いつめられ強い不安を感じています。

 

​ まずは、本人の気持ちを受け止め、安心させることが大切なのです。精神的混乱をきたし、話しても意思 疎通がはかれないときは、病状が急に悪化した状態と考えられます。そのような場合は、「ゆっくり話せ る場所に行こう」「カウンセラーに聴いてもらおう」などと伝え、医務室や学生相談室に同行してくださ い。必要に応じて看護師やカウンセラーから病院への受診を勧め、緊急を要する場合は家族に連絡をとり ます。

 一方、陰性症状は、例えば口数が少なくなる、人に会いたがらずひきこもる、だらしなくなる、成績が 下がる、眠れなくなるなどです。本人には病気という自覚がないことが多いので、周囲が気づいて治療を 受けさせることが重要です。また、時には死にたい気持ちが強まることもあるので、その場合には一人に させない、目を離さないなど特に注意が必要となります。

 統合失調症は、早めに医療につなげることでその後の回復も早いと言われています。治療は薬物療法と リハビリが中心になります。症状がおさまっても服薬を中断すると再発することもあるので、専門医と相 談し、正しく使って症状をコントロールしていきます。日常生活そのものがリハビリの第一歩であり、学 生の場合はキャンパスライフを送ることがリハビリとなります。

 

 「授業より、休み時間の雑談が疲れる」 ということをよく聞きますが、次に何が出てくるかわからない雑談など不測の事態がストレスになるよう です。ストレス過多で再発してしまう場合もあるので、特に通院・入院の治療歴があるとわかっている学 生の場合は、一定の配慮が必要です。もちろん本人の同意が必要となりますが、休学期間、復学時期など の情報を関係機関が共有することで、適切な見守り体制、修学における配慮を提供できます。

 このような疾病が疑われる学生に気がついたら、無理をしないで休むよう助言し、必要に応じて医務室 や学生相談室へ行くように勧めてください。また、修学・学生生活上の特別な配慮を本人が希望する場合 は、YOU ステーションを紹介し、利用を勧めてください。

やる気が出ない、起きれない学生

Q9

ゼミの学生が、最近元気がありません。

 

几帳面にノートを取り、真面目に授業に取り組む姿に好 感を持っていたのですが、この 1 ヶ月くらい、欠席することが多くなりました。

 

久しぶりに出て きたときに聞くと、身体がだるくて重く、何もやる気が出ない、特に朝起き上がるのが億劫にな って大学に出てこられないと言います。

元気がないなりに受け答えはきちんとしているので、非常に深刻、という印象ではないのですが、しばらく様子を見てもいいものでしょうか。

A9

 このような状態からは、「うつ」という言葉が思い浮かぶのではないでしょうか。失恋や学業上の失敗などで一時的に落ち込み、やる気が出ないことがありますが、これは自然な反応です。こ のような場合でも「うつ(状態)」という言葉を使うことがあり、(多くの場合一過性の)気分の状態を指 しています。

 

 これに対し、落ち込みや憂うつな気分の程度が激しい、喜怒哀楽の感情が湧かない、不眠や 食欲低下が続き、否定的な考え(ときに希死念慮)に取りつかれる、長期間回復しない、などにより日常 生活に大きな支障が出ている場合は、背後に病的な過程(脳の機能の失調)が想定され、これをうつ病と 呼んでいます。

 この例の場合は、意欲の減退や身体の重さなど、うつ病の人によく見られる症状があり、大学に出て来 られない期間が 1 ヶ月間はありそうだという点で心配です。受け答えがきちんとしているということで すが、うつ病の人の中には、人と話す場にやっとの思いで現れたという場合でも、相当頑張って相手に合 わせようとする人もいて、深刻さが見えにくいことがあるのです。

 ゆっくりしたテンポでやり取りするこ とを心がけながら、一度病院を受診するように勧めるか、難しければ学生相談室の利用を勧めるのもよい と思います。学生相談室でも精神科医の相談日がありますし、カウンセラーが医療につなぐ場合もありま す。最近ではうつ病についての啓発が進んでいることから、自分の判断や家族の勧めですでに病院を受診し ていることの方が多いかもしれません。

 

 しかし「自分で何とかしたい」「どうせ治らない」など、援助を 求めることに積極的でないこともあります。その場合はだるさや不眠など、主に身体のしんどさについて の話を聞き、いつもとは違うことが起きていることを自覚してもらい、こちらの心配を伝えて受診や相談 を促すと比較的効果があるようです。ゼミ担当の先生が、学生相談室まで同伴していただくのもよいかも しれません。

 

 次に治療ですが、薬物療法が中心になります。そして休養すること(=負担を減らすこと)がとても大 事です。講義への出席を減らしたり、発表やゼミ課題を先延ばしにする必要が出てくるかもしれません。 このような時、ゼミ教員として可能な範囲で配慮をしていただければと思いますが、受講するすべての授 業への配慮が必要になってくると、一教員での対応は困難です。

 

 その際、カウンセラーの意見書や主治医 の診断書があれば、学部と教務部が連携して、授業担当教員への支援依頼を行うことも可能です。このよ うな制度を知らない学生も多く、うつ病の症状で動けない中で、出席や提出期限のプレッシャーに苦しん でいる場合があります。その時は、負担を減らす配慮が可能であることを伝え、修学支援コーディネータ ーのいる相談窓口(YOU ステーション)につないでいただければと思います。

 最後に、うつ病と関連する病気として、双極性障害に触れておきます。うつ病は、うつ状態の期間のみ がある病気ですが、うつ状態と躁状態(非常に高揚して気持ちが大きくなった状態)を繰り返す病気を双 極性障害と呼びます。

 

 特に近年、うつ状態と軽い躁状態を繰り返すタイプ(双極II型障害)が注目されて います。軽い躁状態とは、気分が高揚して仕事が進み、いろいろなアイデアが湧いて調子がよいという状 態で、本人は単に調子がいい状態と感じるため、見過ごされることが多いのです。

 

 うつ状態だけを取り上 げるとうつ病も双極性障害も同じような病気に見えますが、実際には別の病気と考えた方がよく、医学的 な治療も異なってきますので注意が必要です。

コミュニケーションの難しい学生

Q10

 ゼミにちょっと変わった男子学生がいます。大講義では最前列に陣取り、熱心にノートを取って いるので、今どき珍しい真面目な学生だと思っていましたが、ゼミでは全く他の学生たちと話を せず、いわゆる浮いている状態です。

 

 一度、授業であてたときは長々と見当違いの自説を述べた のでそれとなく注意したら、翌週は無断欠席でした。今後指導上で気をつける点を教えて下さい。

A10

 このような学生は、発達障害やその特性をもっていることが想定されます。2005 年の発達障害者支援法施行以来、大学においても支援の体制が整備され、今日では教職員の理解もずいぶんと 進んできました。発達障害には、大きく分けて、「ASD(自閉スペクトラム症)」「ADHD(注意欠如・多 動症)」「SLD(限局性学習症)」があります。生まれもった脳機能の偏り(障害)であり、基本的な特性 は生涯変わらないと考えられています。

 これらの学生は、教室や、サークル、教務部などの事務窓口、人と関わることの多い実習先やバイト先 などで変わった言動をしてトラブルを起こしがちです。トラブルの原因は、人とのコミュニケーションが うまく取れないことにあります。相手の反応を見ずに自分のことや関心のあることを一方的に話したり、 比喩や洒落、冗談が理解できず、軽口やウソや愛想を言うことができません。​

 

 自分が心を寄せる相手(異 性)から「友だちでいようね」といわれても、言葉をそのまま受け取ってしまい、ますます近寄って嫌が られたり、禁煙場所で喫煙する学生を大声で注意して喧嘩をし、パニックになったりします。その一方で、 いったん興味をもった事柄には驚くべき集中力を見せ、その専門的知識や記憶力、描写力などは常人には 真似できないほど優れていることもあります。

 発達障害の特性がある場合、コミュニケーションの苦手さは、社会生活全般に影響します。例えば、実 習グループでは集団での自分の役割がよくわからず、いつも後片付けをすることになり、自分が除け者に されたと被害感を募らせたり、お気に入りのアニメキャラクターを軽くからかわれただけで、憤慨して立 ち去ったりしてしまうこともあります。その場の雰囲気や文脈を読まずに思い込みで行動することが多 く、他人からは協調性がないと受け取られてしまいます。

 

 このような特徴が明らかであるとき、彼らの言動がこのような障害や特性によるものと理解することが 大切です。トラブルが重なると彼らは孤立感を深めてそのままひきこもったり、被害感や攻撃心を強め、 怒りの感情をコントロールできず、暴力的になることも起ってきます。そのような事態に至らないよう、 日常的な配慮と個別の支援が大切です。まずは、その学生の得意と不得意の特徴を知り、学生本人が「困 っている」点は何かに焦点を当て、一緒に解決していこうとはたらきかけてみてください。

 

 すでに本人が医療機関で診断を受けていて(障害者手帳を取得している場合もあります)、学生本人や 保護者から修学支援の申請希望があるときは、修学支援コーディネーターが中心となり、合理的配慮の検 討が行われますので、学内の YOU ステーションを紹介してください。また、本人からの申し出がなくて も、周辺の教職員がその疑いをもち、支援の必要性を感じる場合は、それに準ずる対応をしていきます。 これらの学生は、学業には問題なく取り組めても、就職活動の段階で大きく躓く場合が多いので、支援の 開始は早いに越したことはありません。

 対応の留意点としては、指示は明確に、助言は具体的に、できれば紙に書くなど後から確認できるよう にし、もしうまく対応できなくても感情的に叱責せず、なぜいけなかったのか、今後どうすればよいのか を論理的に伝えていくとよいでしょう。

 

 情緒的な交流に難しさはあっても、これらの学生は総じて純粋で、 真面目なので、教職員が細やかに連携して対応することは、トラブルを起こしがちな彼らの学生生活の確 かな支えとなるでしょう。

学生が性別違和を打ち明けたら

Q11

 今年入学してきた学生に指導主任として会ったところ、1 人の女子学生に、自分は性別違和であ ると言われました。戸籍上は女性であるけれど、女性として扱ってほしくないとのことです。

 

 性 別違和という言葉は聞いたことがあるものの、あまり詳しい知識もなく、対応するなかで傷つけ てしまってはいけないと思います。どのような点に留意してかかわっていけばいいですか。

A11

 私たちは生まれた時に、その身体的特徴から戸籍上男性または女性の性別を割り当てられます。しかし、成長の途上で、その性別に対して違和感や嫌悪感を持つようになる場合があり、その状 態を性別違和と言います。以前は、性同一性障害と呼ばれていましたが、今日では主に医学的治療を求め る場合に限定して「障害」とみなし、基本的には個性(生き方)の一つとみなされています。

 

 性的マイノ リティへの対応が進んだ欧米の大学においては、性別は男女の二つではなく、自分がどう呼ばれたいか (He か She かなど)や性的指向を含め、多様な選択肢から選び、宣言できるようになってきています。

 

 その際、性別違和を含めた性的マイノリティを総称する LGBTIQ という言葉がよく使われます。これは、 Lesbian(女性同性愛者)、Gay(男性同性愛者)、Bisexual(両性愛者)、Transgender(身体上の性別に 違和感を持つ人)に加えて、Intersex(両性具有あるいは間性者)、Questioning(自身の性自認や性的指 向が定まっていない人)を指す表現です。

 性別違和の人は、自分の主観的体験を「本当の性別の上に、別の性別の身体を着せられているような感 じ」と表現することがあります。いわば、着ぐるみを常時着せられているような、落ち着かない感覚です。 自分の身体が合ってない感覚から、猛烈な恥ずかしさを感じることがあり、第二次性徴が起こると、耐え がたい辛さを感じて過ごすことも多いと言われます。

 具体的な対応についてですが、まずその学生をフルネームで呼ぶのを避け、名字のみを「さん」付けで 呼びましょう。どの学生に対してもそうすることが、その学生を際立たせることなく、配慮できる形にな ります。また、学生が通称名使用を希望する場合も考えられます。その際は「学生本人が学生部に相談す ること」が必要になります。

 学生部との面談後、通称名使用を希望する場合、申請書等の書類を提出する 流れになります。なお、通称名の使用ですが、授業名簿や学生証、発行する証明書等は全て通称名が適用 されます。卒業後に発行する書類についても卒業時点でのものということから通称名で発行されますの で、もし本名での証明書が必要になる場合は、卒業前に教務部や学生部との相談が必要になります。

 

 また、性別違和の学生が苦痛を感じる場面をできるだけ減らす環境調整が、第一に求められます。学生 生活においては、多目的トイレの使用や健康診断についての配慮が必要です。また、一年次必修の基礎体育学演習での更衣場所の問題があります。男女どちらと一緒でも演習に苦痛を感じる場合は、スポーツ・ 健康科学教育研究センターへ相談するように伝えてください。事情に合わせて個別対応をしています。他 の授業や実習での配慮を必要とする場合は、YOU ステーションへの相談を勧めてください。

 上回生になればゼミや研究室活動が始まり、より密接な人間関係が発生するとともに、就職活動も大き な課題となります。どのタイミングで、どの範囲で、性別違和であることを開示するのか、しないのかは 重要な問題です。性自認や性的指向は、自分自身のアイデンティティに関わる根本です。性にまつわるこ とは家族であっても言いにくいもので、小さい頃から違和感を抱いて孤独に苦しみ、二次的にうつ状態に なったり、自殺を考えたり、自傷行為に至る場合も珍しくありません。学生期には、ホルモン治療を受け たり、性別を特徴付けている身体部位を切除する決断をしたりする人もいます。教職員には、そういった 学生を既成の価値観で判断することなく、支えていく姿勢が求められていると言えるでしょう。

 学生相談室では、こういった学生に対して、個別の心理的なサポートを行うだけでなく、本人の希望を 訊いた上で、関係部署と連携を取りながら、修学環境調整を進めていくことも行っています。とくに、ま だ学生が自身の性的マイノリティであることの公表を望んでいない場合には、守秘義務を前提とした対応 が可能である旨を説明し、利用を勧めてください。

初めて留学生を指導するとき

Q12

最近、外国人留学生と授業などの場で接することが増えてきました。

 

今まであまり留学生と関わ った経験がないのですが、どのようなことに注意して対応すればよいでしょうか。

A12

 まず、はじめに留学生は、毎日、日本という異なる文化・環境の中で生活し、さらに母語ではない日本語でやりとりをしなければならないため、一般の学生と比べてストレスを抱えやすい 状況にあることを念頭に置いておきましょう。また、周りに馴染めず、集団内で孤立することもありま すので、孤立しないように、普段から何でも話しやすい関係や環境を作っておくことも大切です。

 留学生がストレスを感じる要因はいくつかありますが、そのうちの一つに「言葉」が挙げられます。留 学生の中には、日本語や英語を流暢に話せる人もいれば、日常会話もままならない人もいます。そのた め、その人がどの程度、会話する力や読解力があるかを本人との間で探っていく必要があります。もし、 日本語に不慣れな場合は、なるべく短い文章でゆっくりと話をし、分かりやすい簡単な単語で説明する ことが大切です。また、話し合いをするときは、話し合いの時間を少し長めに取っておくなど、こちら も余裕を持っておいた方が良いでしょう。

 

 お互い言っていることが聞き取れない、もしくはなかなか通じない場合は、単語やキーワードを紙に書 いて一つ一つ確認し合うことも手です。話し言葉であれば、聞き取れないことであっても紙に文字とし て書かれることにより、可視化でき、留学生はその単語を後から調べることもできます。また、書くこ とで一緒に同じものを見ている安心感が生まれ、状況を改善してくれるきっかけになります。さらに書 かれたものを手がかりに、その後、必要となる対応につなげることもあります。ただし、あまりにも言 葉の壁が大きい場合は、本人に了解を取った上で、学生の母語での対応が可能な機関や人につなぐこと で、本人の負担が軽減されます。

 

 また、これは少し意外かもしれませんが、日本語が流暢で一見スムーズにやり取りができている学生も 注意が必要な場合があります。日本では思っていること全てを言葉にせず、相手やその場の空気を「察する」文化ですので、そのようなコミュニケーションに慣れていない学生は、言葉ができても細かなニ ュアンスが掴めず、お互いの理解に大きなズレが生じ、後に問題に発展する可能性があります。そのた め、こちらもいつもよりも細かく説明をし、時には日本の文化や価値観を明確化して、相手に伝えるこ とも必要になるでしょう。

 

 また、留学生と接するにあたり、その留学生が何に価値を置き、どのような宗教や信仰を持っている かを早い段階で確認し、理解することが望ましいでしょう。例えば、ムスリム(イスラーム教を信仰す る人)であれば、1 日 5 回、決まった時間にお祈りをする時間が必要になります。また、食事も、豚肉 を食べず特定の手続きに従って処理がなされた肉(ハラール)しか口にしてはいけない戒律や、断食の 月(ラマダン)があります。このように留学生の生活様式は、これらの宗教的価値観の影響を大きく受 けますので、相手がそれをどのような気持ちで行っているのかに関心を持ち、尊重する姿勢も必要にな ります。もし、分からないときは、無理をせず、相手から「教えてもらう」姿勢で臨むと相手も自分に ついて説明する機会となり、お互いを理解する早道になります。

 

 留学生が朝起きられないなど生活リズムが崩れ、見るからに調子が悪そうな場合や、気分が落ち 込んでいる状態が続く場合は、折を見て学生相談室の利用を勧めてください。英語でのカウンセリング も可能ですので、そこから問題の解決を一緒に考えることができます。また、本人の了解があれば、通 訳者の協力を得て対応を一緒に検討することも可能です。

 

 最近では、慢性的な身体の病気のある留学生や、様々な心身の障害のある留学生が留学することも稀で はありません。慣れない外国ではこれらが母国より重くのし掛かることがありますので、留学生にはよ り細やかな目配りが必要となります。

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